俺たちはバドミントンだけやるわけにはいかない
ある選手が僕のところへ来て言いました。
「コーチ。俺たちはバドミントンだけやっていける国ではないんだ。仕事もしなくちゃいけないし学校も行かなくてはいけない。そんな選手の集まりなんだ」
彼の言いたいことは重々分かります。でも僕が返した答えは、
「So What?(だから?)」
認めるわけにはいかない
代表チームといっても他の国に比べればそれはそれは環境や練習体制は想像を超える悪さです。
が、しかし残念だけど僕はそれを認めるわけにはいかないのです。
心が痛むほど彼の言っている意味は分かります。
彼らにはバドミントン以外に中心に置かなければいけない生活があるから。
でも「そうだよね。分かったよ」とは立場上言うことができないんです。
それを言ってしまえば、言い訳を認めて甘えることを容認するということになるんです。
日本も一緒
「でもね、日本だって一緒だよ。日本にはプロがないから多くの選手は仕事が終わってから練習をするし、学生だったら学校にも行く。ネパールも日本も環境は同じだよ」
日本のバドミントン界はプロではありません。
ですので多くの社会人選手は会社員として属しながら選手として活動します。
もちろんネパールのような練習環境の悪さはありませんが、あえて日本の選手を例に出して「条件は同じだ」と伝えなければいけませんでした。
ネパール代表チームのコーチを任されている以上“環境が悪いから強くないのは仕方ない”という逃げ道を塞ぐのは酷なことと分かっていながら同意することはできませんでした。
世界ジュニアランキング保持の叔父に言われたこと
昨日からネパールバドミントン協会が期待する新星が練習に参加しています。
彼は叔父と一緒に海外への武者修行のトレーニングに励んでいます。
それを期待してか、国内の企業か個人かは分かりませんが彼のスポンサーをして、その支援で彼はタイでトレーニングを積んでいます。
現在は世界ジュニアチャンピオンがいるチームで日々練習をしているとのことでした。
あなたから見るネパールのバドミントンは?
もちろん僕自身海外遠征に行った程度で活躍したこともなければ、バドミントン一筋で今に至るわけではないので広い視野でバドミントンを見てはいませんが、
「一言でいうなら意識の低さが一番大きな問題」とだけ言わせてもらいました。
「叔父さんも一緒に彼と海外で練習しているならわかると思うけど、ネパールと外国じゃ練習に対する姿勢やモチベーションが全然違うでしょ?」
そう言うと叔父さんは「そうなんだ。だからこいつをネパールで練習させたくないんだ」と言います。
日本で言うところのボクシングの亀田親子、女子スキージャンプの高梨親子、そんな感じのイメージです。
叔父さんが彼の専属コーチのような感じ。
力をつけて日本のチームに
彼の夢は「ネパール人初のプロバドミントン選手になること」
今の段階ではまだまだスキルは高くないけど、しっかりとした夢があるなら力をつけていずれネパール人初の日本のバドミントンプレーヤーになって欲しいと思ってます。
今なら海外の選手も様々な国が増えて来ましたし、欲を言えば北海道のコンサドーレ札幌などで選手になればとても面白いと思ってます。
コンサドーレ札幌はサッカーでアジア戦略が軌道に乗りつつありますし、バドミントンチームの方でも新たな国からパイオニアとなる選手を加入して独自の色のあるチームになれば面白いのではないかと。
まあ僕を可愛がってくれた先輩が監督をやっているという贔屓目もありますがね。
僕の小さな夢としても、僕がネパールで出会った選手が僕の地元のチームで選手となってくれたらとても愛着がわきますしね。
代表チームでも勝手に帰る
今日は僕がこちらでコーチをやって初めて選手がここまで揃った日。
女子6人男子5人。
しかし練習が最後まで終わった時には合計4人。
大半の選手は勝手に帰りました。
理由は「足が痛い」とかそんな感じで。僕は何も言わず帰る選手を放っておくだけです。
残りの選手が不満を言う
練習後の話でネパール人のコーチと選手がかなりの言い争いをしていました。
ネパール語での話ではありましたが、おおよそ何について話しているかは分かります。そして一人の選手が英語で僕らに伝えます。
「コーチ僕たちは今、勝手に帰る選手をなぜコーチ陣は放っておくのかと言う話をしているんだ。あなたはどう思う?」
「バドミントンは個人スポーツだけど、今はチームで練習をしているんだ。わかるよな?」そう言うと、
「その通りだ。勝手に帰るなんて代表チームとしてありえないし、何も言わないネパールのコーチ陣もおかしい!」
そんなことを言うようになりました。
変わってくれいるのか
徐々に僕らがここで伝えていることが浸透しつつあるのか。彼らは代表チームとしての特別さを理解してきてくれているのか。
そんなことを感じるようになりました。
まあまだ日進月歩ではあるけれど、選手がコーチ陣に当たり前のことを指摘できるようになってきた。
それは評価していいことかなとも思うし、自分の伝えたいことが伝わっている、そんな嬉しさもあった日です。
正しいか正しくないかではない
僕がこっちに来て常に頭の中にあること。
正しいか正しくないかではなくて自分が信じていることを伝えることしかできない。
それだけです。
正直僕のコーチングスキルなんてたかだか知れているものです。
どんな国であろうと、とても代表をコーチングと言うほどのスキルが備わっているとは思っていません。
でも耳から血が出るんじゃないかと言うくらい24時間ずっと彼らのことを真剣に考えています。
正解はない
僕がここでコーチングしていることはある選手には合っていてもある選手には合っていないかもしれません。
今は芽が出ないけど、数年後には芽吹きになることもあるでしょう。
それをダイヤモンドのように硬く信じて、選手に真剣に伝えることしかできません。
きっと正解はないのだろう。そう思いながらコーチングしています。
できれば日本のように定期的に大会があってそこで出た成績で自分の答え合わせをすれば楽なんでしょうが、そうもいきませんのでね。
まとめ
数日ぶりに書いたシリアスな記事。
ある選手の言った「俺たちはバドミントンだけやるわけにはいかないんだ」と言う言葉が頭から離れなかったのです。
日本ではある程度のレベルになると「俺は(私は)バドミントンで食っていく、バドミントンしかないんだ」
そういうマインドでバドミントンに打ち込むことができるでしょう。
しかし現実的にそれがかなり難しい環境で、どうやってそのマインドでトレーニングしてもらうか。代表選手としての自覚を保持してもらうか。
彼らにコーチングしているようで、本当は僕が彼らから人生のコーチングをされているのかもしれません。
そんなことを日々考えて夜のネパールを散歩しています。